夜雀の歌声 〜Night Bird

今回の雑考対象は東方永夜抄の2面道中曲です。


まずは夜一夜樂団で確認できる説明文の抜粋から。

2面テーマです。
先を急いでいるんだけど、焦燥感は余り無く余裕すら漂っている感じ。
そんな雰囲気を出そうとした曲です。
この曲は私なりに最大限の和洋折衷を目指した曲です。

半ばJazzyなピアノの主旋律の下で16ビートを刻むハイハットが小気味よく感じられる。
曲のBPM(=毎分当たりの拍数)*1は約166と、永夜抄の作品中でもトップクラスになる。
大概の曲が140〜160に収まることを考えると、ある意味異質な曲であろう。
(なお、過去のWin版東方STGで最速と思しき曲は'メイドと血の懐中時計'で約178である)
しかし、面白い事にその曲からは焦りを感じにくい。
むしろその速いBPMの合間から、この状況を楽しむ余裕さえ感じられる。
では何がそうさせるのだろうか?
その要素を見つけるために、曲の構成について見ていくことにする。


この曲でせわしなく動いているのはピアノの主旋律であるが、鍵盤上で指を遊ばせるかのような音を奏でている。
ガチガチの硬い打弦音ではなく、軟らかなタッチを用いたかのような音色を利用しており、Jazzのad lib.に限りなく近い動かし方をしている。
これによって主旋律が慌しく動いても、その軟らかさゆえに聴く側のテンションをあげる事は無いと思われる。
このような微妙なタッチの違いなどは、Midiのみで表現しきることが出来ない部分もあるだろう。
また、主旋律がad lib.で遊ぶこと事態が楽曲に余裕があることを感じさせる要因ともなりうるだろうか。


また同時にその下で鳴っているベースラインの動きが、思いのほかゆったりめに取られている事に注目したい。
コード進行の側面から見て、ベース音を長く取る事が和音の安定化を促す。
またそのコード進行自体を大きく取る事で、主旋律を一つのコード内で十分に遊ばせる事が出来るのである。
これは16ビートを刻むドラムにも通ずるところがあり、この楽曲ではリズム要素の下支えをしっかり行っている。
(ベースやドラムが浮ついたリズム、音を出す事は曲全体の不安定化につながる事の裏返しでもある)
そしてこのベースラインの進行パターンは、やはりお約束なのだろうか。
やはり今までの東方サウンドを髣髴とさせる進行が見え隠れしている。
主旋律の洋物っぽさと対を成すような音が、そこに鳴っているような気がしてならない。


まとめとしては、主旋律がメロディを遊ばせている下で、きっちりとベース&リズムラインが刻まれているからこそ
速いBPMでも焦燥感を与えない楽曲に仕上げる事が出来たのではないだろうか?
日常生活でもよくよく考えれば類似したような現象が確認できるかもしれない。
腰から下の重心が安定するからこそ、上半身の無駄な力が抜ける、という武道の自然体などは
もとをただせば同じところに帰結するのかもしれない。


つぶやき:いくら忙しくても、この曲くらいの心の余裕を持ちたいものです。

*1:独自調査による